画像引用:Universal Basic Income Explained – Free Money for Everybody?
2019年11月1日、ワシントンポストに掲載された論説です。
ユニバーサル・ベーシックインカムについて、現時点でのアウトラインを理解できる内容になっています。
「財源がない」というところに着地するあたりは、今のところマスコミの「お約束」のようです。
Universal Basic Income - The Washington Post
Bloomberg QuickTake Analysis By Paula Dwyer
Universal Basic Income
政府は、何の制約もつけず、何の質問もせず、すべての国民に毎月お金を支給すべきでしょうか?
それとも、健康保険や病気休暇があるまともな仕事を用意すべきでしょうか?
これらのアイデアは、拡大する不平等を相殺し、職場の機械化によって引き起こされる失業に対する不安を緩和するには、どのような方法で、どのくらいまで、社会的セーフティネットを強化すればよいかについての、世界的議論の一部です。
雇用創出政策は、発展途上国においては、主たる貧困対策の1つですが、ユニバーサルベーシックインカムとしてお金を給付するアイデアに関心が集まっています。
ヨーロッパ、北米、アフリカではUBIの社会実験が行われました。
資産調査に基づいた福祉政策にとって代わる「生活費保証」は、その仕組みにもよりますが、大きな政治的アピールにはなります。
2020年のアメリカ大統領選では、ベーシックインカムあるいは雇用を確保することが、民主党の大統領候補者たちの共通テーマとなっています。
現状
ユニバーサルベーシックインカムの伝道者は、シリコンバレーにいます。
マークザッカーバーグやイーロンマスクといったIT長者らは、UBIを、消費者の反感を買っている無人自動車、ロボット、その他のオートメーションなどによって雇用が失われることへの解決策としてとらえています。
Googleの慈善活動部門は、ニューヨークを拠点とする非営利団体GiveDirectlyに、金銭的支援を行っています。
GiveDirectlyは、ケニアの5,000人に、最大12年間、1日あたり約75セントを支給し、雇用、栄養状態、メンタルヘルスにどのような影響があるのかを調査しています。
インドのシッキム州では、最大級の社会実験が計画されています。
与党は、2022年までに、610,000人の市民全員に、ベーシックインカムを支給すると発表しています。
インド政府はすでに、農村部の労働者に対して、年間100日までの有給雇用を保証しています。
「グリーンニューディール」というリベラル派の政策集は、すべてのアメリカ人に「家族を養えるだけの賃金収入」を保証するよう提案しています。
財源はどうするのでしょうか?
グリーンニューディール支持者の中には、インフレが低く抑えられている限り、経済学的に受容されるよりも、はるかに大きな赤字予算を組んでもよいという、型破りな「現代貨幣理論(MMT)」を主張する人たちもいます。
バーニー・サンダース上院議員は、就職希望者には最低時給15ドルと社会保障を保証すること、劣化した社会基盤の建て直しや、育児支援を行い、そこに税金を投入するよう提案しています。
実業家のアンドリュー・ヤンは、民主党の指名を得るために、すべてのアメリカの成人に年間12,000ドルを支給する計画に基づいた長期間のキャンペーンを行っていました。
誰もがベーシックインカムを喜ぶわけではありません。
2016年、スイスでは、成人1人あたり約2,500スイスフラン(2,460ドル)を支給するというベーシックインカム案が国民投票にかけられました。スイス政府は、ベーシックインカム案が可決されれば、増税は不可避となり、熟練労働者が不足し、外国人労働者が増えると警告。有権者は、ベーシックインカム案を否決しました。
2016年の大統領選に、民主党から出馬したヒラリー・クリントンは、大統領選の後、UBIを経済計画の中心に据えようとしたが、コスト面からあきらめたことを明かした。
歴史
政府が最低所得を保証すべきという考え方は何世紀も前にさかのぼります。16世紀にヒューマニストの哲学者が考え出したという人もいます。
イギリスの哲学者でノーベル賞受賞者のバートランド・ラッセルは、20世紀初頭のUBI支持者の1人です。1920年、英国労働党の会議では、一種のベーシックインカムが議論されたものの、形にはなりませんでした。
1960年代になって、リチャード・ニクソン大統領が、「負の所得税」という形で、世帯あたりの最低所得を保証するよう提案し、アメリカの政治中枢において議論がなされました。
この提案は、議会内での議論にとどまりましたが、低所得者層への税還付となる所得税控除の採用につながりました。
負の所得税を提案したとされる保守派の経済学者ミルトン・フリードマンは、所得が上限を超えると政府の援助が消滅し、人々の就労を妨げる可能性のある「所得の崖」を終わらせたのです。
税控除は、貧困対策プログラムとして効果的だと考えられていますが、「所得の崖」問題はこれまで以上に複雑になっています。現在、米国には80を超える低所得者向けのプログラムがあり、それぞれに独自の所得上限が設定されています。
仕事の保証については、アメリカはフランクリン・D・ルーズベルトの「公共事業促進局」の経験があります。大恐慌の時代には、建設と芸術に数百万人の雇用を創出しました。
1968年、ミルトン・フリードマンは負の所得税の提案について議論しました。
議論
UBI支持者の多くは、先進的経済が達成しうる最終局面として、ベーシックインカムをとらえています。
それは貧困と不平等を減らし、仕事に報酬を与え、実業家を励まし、人々を少しばかり健康に、そして幸せにするかもしれません。
2つの問いが、UBIの鍵となるでしょう。
適正な支給額とはいくらでしょうか。そして、最も福祉を必要とする人々向けの、資産調査に基づくセーフティネットプログラムはどうなるのでしょうか?
反政府資料を手にした群衆を納得させるには、ベーシックインカムを保証するプログラムを、現在米国の納税者に年間約1兆ドルを還付している、数十におよぶ社会福祉プログラムの補完とはせず、置き換えねばらないでしょう。
理論的には、政治的右派と左派が手を取り合えば、今よりも悪くなる人を発生させない、素晴らしいUBI政策を打ち出せるかもしれませんが、就職活動をやめさせるくらい支給するには、増税しなくてはならないでしょう。
アメリカの民主党員の中には、UBIという難題を実現させることよりも、最低賃金15ドルや有給休暇など、実現性の高そうな課題を推進させたいという人もいます。
補足説明
『グリーン・ニューディール』(A Green New Deal)
2008年7月21日にグリーン・ニューディール・グループが発表し、新経済財団(NEF、New Economics Foundation)により出版されている報告書。地球温暖化、世界金融危機、石油資源枯渇に対する一連の政策提言の概要が記されている。報告書は、金融と租税の再構築、および再生可能エネルギー資源に対する積極的な財政出動を提言している。2008年後半からの世界金融危機などへの対応のため、世界各国でこれに沿った政策が検討もしくは推進されている。
正式名称は『グリーン・ニューディール:信用危機・気候変動・原油価格高騰の3大危機を解決するための政策集』(A Green New Deal: Joined-up policies to solve the triple crunch of the credit crisis, climate change and high oil prices)