住民発議による住民投票 & 無条件ベーシックインカム

CHダグラス『社会信用論』翻訳者・上岡みおが世界の賢人に学んだことをつづるブログ

経済成長の不可能性を補う政策「政府貨幣によるベーシックインカム」

 

「経済成長」することは、すべての経済活動の大前提になっています。


会社を経営をしていくには、必要経費を捻出し、借入金を返済し、従業員へ報酬を支払い、そして従業員の年功に応じた賃金アップをしていかねばなりません。そのためには、顧客を増やし続けること、利益を増大させ続けることが必要です。

経済成長によって、企業利益が増大し、個人所得が増えていけば、法人税や所得税も増えるので、少子高齢化によって増大しつつある社会的コストに充てることができます。

政治的には、「成長と分配」、つまり、経済成長をさせつつ、所得を再分配をすることが、基本的な課題であり続けてきました。

岸田政権もいま、「成長と分配」という政策を打ちだしています。

 

画像:岸田文雄の政策 


しかし、地球の資源は有限なので、経済成長し続けることは、物理的に不可能です。少子高齢化が始まっている国々では、経済は、成長するどころか縮小しつつあります。

最近では、「経済成長」を目標にすることを見直すべきと主張する経済学者が増えてきています。

以下、そうした主張をご紹介しつつ、改めて、「政府貨幣による月額20万円ベーシックインカム」が、経済成長しにくくなった社会と、そのことによって苦しめられている個人を救う政策であることを説明させていただきます。

 

 

 

 

経済成長が支持されてきた理由

経済成長はなぜ必要か ~ マクロ経済と少子高齢化 小林慶一郎/独立行政法人経済産業研究所 2019 より抜粋

 

①自由主義と相性が良い

個人の多様な価値観を尊重する自由な社会では、価値中立的な経済成長が社会の目標となる。

 

②為政者が「清算の日」を先送りできる

経済成長によって、社会のフロンティアが広がれば、国民に対する所得再分配の約束を履行しなくても、為政者は新しい目標を提示し、約束を更新することができる。その際、古い約束は、新しい約束の中に埋め込まれるので、古い約束が不履行になるわけではない。

 

③個人の人生に意味を与える面がある

近代以降、個人の人生に意味を与える社会共有の伝統的価値(宗教やコミュニティの価値)は徐々に失われた。その価値を代替したのが、経済成長である。

個人は、直接的または間接的に、経済に貢献することによって、自己の価値を実感することができる。このとき、経済が「成長」することが本質的に重要である。

心理学の研究でも知られているが、人間は生活が変化しないとその生活水準を意識することは難しく、状態が良い方向に「変化」して初めて、喜びや満足感を感じる。

個人が経済に貢献することに自分の人生の意味を見いだせるようになるためには、経済が「成長」することが必要なのである。

こうして「経済成長」が現代社会の目標として広くコンセンサスとなる。

 

 

 

家電だけで生き残れない」パナ100年、迫られる変化:朝日新聞デジタル

 

画像:朝日新聞 家電だけでは生き残れない

 

 

少子高齢化によって加速するマイナス成長

ロイターコラム:日本経済に「成長」は必要か James Saft 2016

企業が、少子高齢化にともなう顧客の減少に合わせて、収益性を確保できる水準まで事業規模を縮小しようとすると、低成長又はマイナス成長が加速する。

そこで、各国の中央銀行は、かつては人口増大によって自然に得られていた成長を実現するための手段として、金利を下げ、貸し出しを増やそうとする。

貸し出しを増やすという戦術が正しいなら、経済の成長率は上がり、グローバル市場は落ち着きを取り戻すはずだ。

しかし、日本を見ても、他の先進国を見ても、超低金利によって投資の力強い回復がもたらされたという成功例はない。

少子高齢化によって経済成長が止まったとき、超低金利政策によっては、経済成長を促せないのであれば、その手段が間違っているのではなく、「経済を成長させる」という目標設定そのものが間違っているのかもしれない。

 

 

 

経済成長にかわる、新しい政治哲学とは

 

一人ひとりが自らの価値を高める

個人の視点に立った経済成長 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 鈴木明彦 2008

教育のあり方とも関係してくるが、個々人が自らの価値を高めていく努力をしなければ、個人主導の経済成長は実現せず、自分の所得を増やすこともできない。

 

 

人工知能や情報技術による「知の進歩」

経済成長はなぜ必要か ~ マクロ経済と少子高齢化 小林慶一郎/独立行政法人経済産業研究所 2019 

しかし、経済成長は物理的には永続できない。これからの人間社会を持続可能なものとするには、経済成長に代えて、なにか別の「成長」を目標とすべきだ。

人工知能や情報技術による「知の進歩」が、経済成長に代わる新しい社会理念となるのかもしれない。

人間の知性が人工知能によって増強されれば、知の発展の可能性は無限に広がるが、知の進歩は資源制約や環境制約にはしばられない。

そのような「成長」なら個人の自由な人生に意味を付与するとともに、世界の持続性と両立できるのではないか。

 

 

デジタル革命は経済成長をもたらさない

「経済は成長しなければならない」は正しいか ダニエル・コーエン  「ル・モンド紙」論説委員 2017

今日、新たなデジタル経済では、「コストゼロ」という破壊的な生産モデルが整った。チェス、株式取引、チケット販売など、必要とされる知的レベルにかかわらず、ルーティン化された作業は、価格の安いソフトウエアが行うようになった。

われわれは、「経済成長なき産業革命(デジタル革命)」という語義矛盾を体験したのだ。この驚くべき状況をどのように理解すればよいのか。デジタル革命が1世紀前の電気革命と同様の経済成長の加速をもたらさないのは、なぜなのか。

 


第1の説明:人間の労働生産性が向上していない

高度経済成長をもたらすには、人間の代わりに高性能の機械を導入するだけでは十分でない。高性能の機械によって雇用を奪われた人々の生産性が向上しなければならないのだ。

20世紀には、農村部を追われた農民たちが大きな成長の見込まれる産業に就職したため、高度経済成長が実現した。

しかし、今日では、持続的な経済成長を再現するには、たとえば庭師の手仕事が工業化するだけではだめなのだ。

持続的な経済成長を望むのなら、庭師は栽培する花の量および質(?)を高める方法を学ぶ必要がある。庭師の労働生産性を向上させねばならないのだ。

 


第2の説明:消費はデジタル革命によっては増えない

ポスト工業社会は、社会的相互作用(カーシェアリング、デートの相手探し、社会的な交流など)をうまく管理したり、公害(騒音、環境危機)を減らしたり、テレビのチャンネルを増やしたりすることに力を傾注している。

経済学者ロバート・ゴードンらによると、ポスト工業社会は真の意味で新しい消費社会をつくり出さなかったという。消費者は、スマートフォンを除けば、電球、自動車、飛行機、映画、エアコンにはじめて接したときのような衝撃を覚えなかった。

デジタル社会では、労働者はレモンのように徹底的に搾られるが(生産側)、デジタル社会が生み出す世界(消費側)には、その象徴であるタブレットやスマートフォンがすでにあふれかえっている。

 

 

産業革命によって到達した世界

「経済は成長しなければならない」は正しいか ダニエル・コーエン  「ル・モンド紙」論説委員 2017

 

19世紀初頭緒に食糧問題が解決されたように「経済問題」もまもなく解決される。産業が発達するペースから考えて、2030年には人々は1日3時間働くだけで暮らせるようになり、残りの時間は、芸術、文化、形而上学的な考察など、本当に重要なことに時間を費やすようになる。

経済学者ジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)

 

構造的な価値として、独創性が権威に取って代わった。教育の普及や福祉の充実により、国民は迷信と決別し、貧窮から脱した。我々の社会は、生活必需品に拘束されないポスト物質社会へと移行しつつある。

社会学者ロナルド・イングルハート(1934-2021)

 

ケインズもイングルハートも同じ過ちを犯した。ポスト工業社会は、寛容な精神にあふれる安心できる世の中をつくり出すどころか、実際は、正反対の世界を生み出した。

すなわち、ポスト工業社会では経済的な不安定さが育まれ、人々は将来に不安を抱くようになった。理想を高めるはずだったポスト工業社会は、理想を壊したのだ。


 

人類史における「経済成長」とは

 

個人所得が増えた期間は200-250年くらい

目指すべきは「成長」でもなければ、「脱成長」でもない
経済学者ダニエル・コーエン「“幸せになろう”と思っても、うまくはいきません」
courrierインタビュー2021

マルサスの法則

1人当たりの所得が増えていくという意味での経済成長には200~250年ほどの歴史しかありません。それ以前の世界は農業が中心であり、人が所得を増やすことはほとんどありませんでした。

なぜかというと「マルサスの法則」が働いていたからです。ある社会が何らかの理由で、必要最低限以上のものを生産できるようになったとしても、それがすぐに人口の増加をもたらしたので、結局、1人当たりの所得は増えなかったのです。

 

めざすべきは「成長」でもなければ、「脱成長」でもない

めざすべきは「成長」でもなければ、「脱成長」でもありません。人間としての生活に最低限必要なものが何なのかを見据えるべきです。

・自国の若者に何を与えられるのか。
・若者が、どんな知的能力、身体的能力を持てるようにすべきか。
・若者が社会と調和を保ちながら生きられるようにするには何ができるのか。
・若者が興味を持てる職業に就けるようにするにはどうすればいいのか。

こういったことがいまの重要課題です。
とりわけ昨今はAIといった最新技術で雇用が破壊されようとしていますからね。


幸福とは
幸福を目標としてとらえるのはよくないですよね。「幸せになろう」と思ってもうまくはいきません。アリストテレスだったかと思いますが、幸福は報酬であり目標ではないと言っています。

目標とすべきは、近しい人とともに時間を過ごし、その人たちを助けたり、会話をしたりすることです。家族や友人だけでなく、交流の範囲をもっと広げるのもいいかもしれません。

幸福になるために何かをしようとは思わずに、ほとんど幸福のことは忘れたほうがいいのです。

フロイトによれば、幸福とは、寒くて毛布をかけたときに味わう束の間の感覚のようなものだとのことです。心掛けるべきなのは、自分の内の調和を保ち、周りの人とも調和を保つことです。

 

 

現実社会は経済成長率を示す指標によって動いている

~経済指標に支配される社会~

 

経済指標とは
GLOBIS 経済指標の備忘録 #1

経済指標は、その国の経済状況を映し出す鏡と言えます。調査から発表までのタイムラグがあるため、鏡に映る姿はリアルタイムのものではありませんが、ある期間の経済の姿を客観的な視点で切り取ったものとして、非常に重要なデータです。

ビジネスパーソンは、マクロの経済状況の変動とは無縁ではいられません。経済指標に注意を払わずに、自らの感覚で経済の姿を捉え続けたら、的外れな現状判断をしてしまう恐れが強まります。


各ジャンルの主な指標です。

●景気全般
GDP(内閣府)、景気動向指数(内閣府)、景気ウオッチャー調査(内閣府)、ESPフォーキャスト(日本経済研究センター)

●企業活動
日銀短観(日銀)、法人企業統計(財務省)、鉱工業生産(経済産業省)、機械受注(内閣府)、工作機械受注(日本工作機械工業会)、auじぶん銀行製造業購買担当者景気指数(PMI、IHSマークイット)、粗鋼生産高(日本鉄鋼連盟)、第3次産業活動指数(経済産業省)、建設工事受注(国土交通省)

●消費
商業動態統計(経済産業省)、家計調査(総務省)、消費総合指数(内閣府)、消費動向調査(内閣府)、新設住宅着工件数(国土交通省)、新車販売(自販連など)、首都圏マンション市場動向(不動産経済研究所)、旅行取扱高(国土交通省)、全国百貨店売上高(日本百貨店協会)

●貿易
貿易統計(財務省)、国際収支統計(財務省)

●雇用
失業率(総務省)、有効求人倍率(厚生労働省)、毎月勤労統計(厚生労働省)

●物価
消費者物価指数(総務省)、企業物価指数(日銀)、GDPデフレーター(内閣府)

 

 

政府貨幣による月額20万円ベーシックインカム

「経済成長」を目標にすることを見直すべきと主張する経済学者が増えてきています。

好ましいことと思いますが、現実の社会は、経済成長することを前提としており、様々な経済指標にがんじがらめになって硬直しています。

この硬直状態から社会を解放するのは簡単なことではありません。

しかし、政府がお金を発行して配るタイプのベーシックインカムであれば、経済成長を助けつつ、個人の生活不安を解消させることができます。

 

 



経済成長を助ける

ベーシックインカムを支給すると、一人ひとりの購買力があがるので、消費が活発になります。その結果、経済は成長します。



政府がお金を発行して配るタイプのベーシックインカムは、現行の政治経済システムを一切変更することなく、現行制度に並走させられる政策です。

現行の法律を活用すれば、すぐにでも始められます。税金を集める必要がないので、いくら支給できるか、ではなく、いくら支給すべきかという視点から、支給額を設定できます。

社会学的検証をしたうえで、支給金額が多すぎた場合には減額できますし、支給金額が少なすぎた場合には、増額するのも簡単です。

 

現代人への呪いを解き放つ

現代人には、色々な呪いがかけられています

・経済成長しなくてはならない
・賃金労働しなくてはならない
・税負担をしなくてはならない

ベーシックインカムは、こうした現代人への呪いを解き放ってくれる制度です。

CHダグラスは『社会信用論』(1933)において、「必要となるモノとサービスを生産するために完全雇用する必要はない」と述べています。


人間の命と生活と尊厳を守るうえでも、地球環境は守っていくうえでも、不必要なモノとサービスは、作らないほうが良いのです。

 

ベーシックインカムによって生活が保障されれば、不必要なモノやサービスを作る仕事をやめることができます。



 

これからの社会に求められるのは、人間性を成長させ続けること

人間は、状態が良い方向に「変化」して初めて、喜びや満足感を感じるとされています。

だから「経済を成長させる」ことが必要だとされてきました。

しかし、経済を成長させていった結果、心身に不調をきたす人が増えてしまいました。経済成長そのものも、人口増加のペースが鈍くなるとともに鈍化してきています。

 

経済を成長させることを目的とするのではなく、人間性を成長させることを「意識」する

「人間は、状態が良い方向に「変化」して初めて、喜びや満足感を感じる」という指摘が正しいのであれば、経済だけにこだわるのではなく、人間性を成長させること、そして、花や樹木、野菜など、再生産が可能なものを成長させることに取り組んでも良いのではないでしょうか。

一人ひとりが

〇学ぶ
〇高める
〇深める
〇育てる(花・野菜・動物)
〇他者との交流

などの経験を積んでいくことが「人間的成長」を促進させるはずです。

経済が成長するよりも、人間的に成長していくほうが、楽しいはずです。

 

学びは、自分で調べる力や、仮説をたてて検証する力、より良い社会にしていくために何をすべきか考える力の基礎となります。

学びは、座学だけではありません。例えば、料理、掃除、洗濯などの家事にも、学ぶこと、高めるべきことや深めるべきことはたくさんあります。

昨日よりも美味しい料理をつくれるようになることだって「成長」と呼んでよいはずです。

歌うこと、踊ること、奏でることなどでは、技術力や表現力にゴールはありません。日々研鑽を積んでいかねばなりません。それもまた「成長」と呼んでよいはずです。

花や樹木や野菜、動物を育てることには、無上の喜びがあります。

 


そして、他者と交流することで、自分を尊重すること、他者を尊重すること、そして話し合いの文化を育んでいけるのではないでしょうか。

自宅で自分や家族のために料理を作ってもGDPは増えません。

家庭菜園で、自家採取した種から野菜を作っても、GDPは増えません。

心をこめてつくった野菜や料理で友人をもてなしてもGDPは増えません。

しかし、そこには、確かな学びと喜び、そして「成長」があるはずです。

政府貨幣による月額20万円ベーシックインカム、生活に困らないだけのお金を毎月受け取ることができれば、そういった性質の「成長」を目指せるようになります。