お金の起源と歴史
物々交換
皆が土を耕して種をまき、実りを収穫していた時代は、「交換」は倫理的にも実用的にも妥当な議論であった。生産した物を使用するか、他の物品と交換するかは、それを作った人自身の判断によって決めることができた。『社会信用論』
物々交換 × 引換券
物々交換プロセスに「引換券」が用いられるようになった。
家畜の所有者は、交換に値する物資を見つけると、その持ち主に「円い革」を手渡した。受け取った者は、都合のよいときにその革を提示すれば、家畜を届けてもらえた。
『社会信用論』
「金銭的(pecuniary)」という言葉の語源は、 ラテン語で家畜を意味するpecusであるが、牛や馬を象徴するものとして円形の革が用いられたことの表れでもある。『社会信用論』
引換券利用において着目すべき2点
(a) 家畜の所有者と円い革(マネー)を作った者が同一人物であったこと。
(b) 交換システムが用いられている範囲では、マネーは物資に見合うだけしか製造されなかったこと。
マネーは、物資と等価交換できる基準で発行され、物資がなくなれば(あるいはマネー発行者が物資を届け終わったら)そのマネーは無価値となるため、あらためてマネーを発行せねばならない。 こういった単純なマネーシステムは、物資の量にも種類にも限りがある牧歌的な集落にとっては、非常に便利であったと思われる。『社会信用論』
物品貨幣
米・布・塩などが 貨幣の役割をはたすこともあった。「物品貨幣」あるいは「商品貨幣」といわれる。
・「サラリー/給料」の語源はラテン語の「salarium」。「塩のお金」という意味。
・古代ローマでは、兵士の給料を「塩」で払っていた時代があった。
・古代ギリシア人は奴隷購入に「塩」を使っていたと言われている。
・中国では塩に重税を課して財源としていた時代があった。許可無く塩を作ったり売ったりすると重い罰が課された。
貝貨(ばいか)
紀元前16世紀から紀元前8世紀、殷・周の時代の中国では、南方海産の「たから貝(別名:子安貝)が貨幣として使用された。たから貝は、光沢や形状の宝物性・神聖性、遠方産という希少性などから、王侯貴族の間で装飾品・贈答品として珍重されていたことから、次第に交換の媒介物として広く使用されるようになった。
貝類が貨幣として優れている点
・個数を数えやすい
・小額単位に向いており日常の取引に使える
・模造されにくい
・腐食や変質しにくく素材として安定している
・取引される財に対して中立である
漢字にみられる貝貨の名残り
「財」「貯」「買」「貨」「贈」「賭」などの文字に「貝」という字が使われているのは、古代中国で貝殻がお金のかわりに用いられていたことの名残である。
倣製貝(ほうせいがい)
たから貝よりも入手容易な淡水産の貝や獣骨、玉、銅などの素材を用いて、貝貨を模倣するようになった。
鋳造貨幣(ちゅうぞうかへい)
これら物品貨幣のうちでは、運びやすい、腐らない、小分けできるなどの点で金属が便利であるため、主に金属が使われ、やがて一定の型に固めた金属「鋳造貨幣」が使われるようになった、という説明が一般的である。
紀元前20世紀頃のエジプトやバビロニアでは金属(地金や金属片)が秤で量られながらやりとりされ、紀元前7~3世紀には中国・ギリシア・ローマで鋳造貨幣が使われ始めたと言われている。
下記写真は、世界初の鋳造貨幣といわれるリディアの「エレクトロン貨」。金貨の素材に使われている天然の金銀合金の輝きや色合いが、エレクトロンすなわち琥珀に似ていたため、古代ギリシャ人はエレクトロン貨と呼んで珍重した。リディアは、紀元前7世紀 - 紀元前547年、アナトリア半島(現在のトルコ)のリディア地方を中心に栄えた国家である。
現代の我々も金属の鋳造貨幣を利用している。人間は約4000年にわたって金属を「おかね」として利用してきたことになる。
最近まで、金属以外の物品貨幣も併用されてきた。例えば、植民地時代のアメリカでは17世紀半ばに銀貨が作られ始めたが、その後も穀物などが「おかね」として広く流通していた。日本でも鎌倉時代から金属製の鋳造貨幣が本格的に流通し始めたが、米も決済手段として使われていた。
紙幣
「おかね」が金属から紙に置き換わってきた歴史は様々である。
例えば中国(宋、10~13世紀)では、商業が活発化する中で、重たい鉄のコインを運搬するのが不便であったことから「交子」(為替手形=コインの預かり証)が作り出され、おかねとして用いられた。
その後、元(13~14世紀)の時代にはフビライが紙幣を作り領土内の金銀を買い集めた結果、これが広く流通したと言われている。マルコ・ポーロは、人々がこの紙幣を役所に持っていくと金銀に交換してもらえる、と記している。
日本では、17世紀のはじめ頃、近畿地方の有力商人たちが「私札」という紙幣を発行し始めた。その先駆けは山田羽書(やまだはがき)という銀の預り証であった。伊勢山田地方の商人が釣り銭として少額の銀貨を払う際、それに代えて発行していた。下記写真は、日本銀行貨幣博物館が所蔵している、1600年頃の山田羽書。
ヨーロッパでは、17世紀半ばに金細工師が金属の預り証(ゴールドスミス・ノート、goldsmith note)を発行し、これがおかねとして流通したのが紙幣の始まりだとされている。(日本銀行)
中央銀行システム
マネーシステムは高度に複雑化した文明社会にあわせて増長し、修正が加えられていくうちに、乱用(おそらく偽造とインフレーション)されるようになった。マネーシステムを乱用する者のうちから、これに特化して活動するグループが生まれ、銀行と信用システムの骨組みが作られていったようだ。財産の所有者自身が有していた金銭を発行する権利を、彼のために行動してくれているはずの専門家集団へと移転させることは、いとも簡単な作業であっただろう。『社会信用論』
中央銀行制度が世界標準となっていく
1668年 スウェーデンリスク銀行設立。世界最古の中央銀行。
中央銀行による通貨の独占的発行が開始された
1816年 オーストリア国立銀行(世界初)
1844年 イングランド銀行
1883年 日本銀行
1914年 連邦準備銀行(アメリカ)
(神戸大学経済経営研究所 井澤秀記教授 )
地域通貨
発行主体、財源確保の方法、流通範囲、運営方法などによって性質が異なるものが「地域通貨」と総称されていることに注意が必要。
【農林中金総合研究所レポート】
■地域通貨の一般的な仕組み
地域通貨の一般的な仕組みは、雪かきをする、成長して不要になった子供のおもちゃをあげる等、参加者が提供できる、あるいは欲しいと思っているモノやサービスをそれぞれ申告し、事務局がそれをまとめた一覧表を作る。参加者はそれをみて連絡をとりあい、お互いにモノやサービスの交換を行う。地域通貨には、事務局が紙幣等のクーポンを発行しそれをやりとりの際に利用するもの、または、サービス提供者の口座にはプラスの残高、利用者の口座にはマイナスの残高がつくという口座変動形式のもの等がある。(図1)
【大和総研レポート】
■地域通貨概説
近年、地域・文化圏といったコミュニティの中で流通する地域通貨への注目度が高まっている。地域通貨はこれまでにも世界各国で発行されてきた。日本においても、1990 年代以降、地域通貨が発行されてきたが、管理コストの負担や利用拡大が進まないといった課題から、発行停止となった事例が多い。
日本で近年発行された地域通貨の一部は、
(1)地域金融機関が発行主体となっており、決済サービスに貸付なども加えた総合的な金融サービスを提供し得ること
(2)デジタル技術の活用が進んでおり、決済手段としての利便性を高めつつ管理コストを抑制し得ること
という2点において、過去の事例よりもサステナブルな仕組みになる可能性がある。
今後は、地域通貨のさらなるコスト抑制の方策としてブロックチェーン技術の活用や、ICO等の新たな地域通貨の発行方式の適切な運用が注目点である。こうした新たに登場した技術・仕組みを取り入れながら、地域通貨には、地域内の消費喚起や、地域内での資金の円滑な循環を実現し地域経済・コミュニティの活性化を推し進める役割が期待されよう。
(大和総研)
スイスのWIR(ヴィア)
地域通貨として有名なスイスのWIR(ヴィア)。
1934 年、スイスの中小企業協同組合によって、地域通貨 WIR(ヴィア)の発行が開始された。1936 年以降は、銀行免許を有するWIR銀行によって発行・管理がなされている。
WIRは会員制の通貨である。WIR会員は、中小企業 数万社によって構成されている。WIRは、WIR銀行から会員向けに発行(低利で貸付)され、中小企業間のモノ・サービスの取引や、給与として支払われた中小企業で働く従業員と企業間の取引で用いられる。
WIRに紙幣はなく、小切手やカードで決済が可能である。スイスの法定通貨であるスイスフランへの交換は不可能であるが、1WIR=1スイスフランと設定されている。
暗号資産/仮想通貨
インターネット上で流通する電子的な資産。
当初は、仮想通貨と呼ばれていたが、円やドルなどの法定通貨と誤解される恐れがあるほか、G20などの国際会議で通貨と明確に区別するために「crypto-asset=クリプトアセット(暗号資産)」と表現していることから、金融庁は資金決済法を改正して、呼称を暗号資産に変更した。「ビットコイン」など600種類以上の暗号資産が存在するとされるが、法定通貨や電子マネーとは異なり、特定の発行者や管理者は存在しない。ネット上の取引所で米ドルや円などの通貨と交換できるが、価格は刻々と変動する。「ブロックチェーン」(デジタル台帳)と呼ばれる技術を基盤に、ネットワークの参加者同士が取引の信頼性を確かめ合う仕組みは、取引記録が改ざんされにくいという特長がある。
利用者保護を図るため、暗号資産交換サービスを行うには金融庁への登録が必要となっている。顧客資産の分別管理のほか、マネーロンダリングの観点から口座開設時の本人確認が義務付けられている。
※筆者周囲には暗号資産/仮想通貨で巨利を得たという人もいるが、詐欺やハッキングによる資産強奪などの被害を被る人も後を絶たない。
暗号資産の犯罪被害、5カ月で約1500億円──2019年の過去最高額に迫る勢い | coindesk JAPAN | コインデスク・ジャパン